三重県津市/榊原温泉 湯の瀬 ラムちゃんパーク新築プロジェクト
PROJECT INTERVIEW
地域振興の場として親しまれてきた温浴施設の建替え
DBO(公設民営)方式による建て替えを振り返って
三重県津市・榊原温泉は、古くは清少納言が枕草子で日本三大名泉と謳い、「恋の湯治場」として都では温泉の代名詞となり、お伊勢さんの湯ごりの地「宮の湯」とも呼ばれ親しまれてきました。その歴史の中、津市が所有、運営管理を行っていた温浴施設「津市榊原自然の森温泉保養館・湯の瀬」は観光振興及び地域振興を目的に建設されましたが、築30年以上が経過し業務委託料および老朽化による修繕維持費が大きな財政負担となっていました。そのため、2018年に三重県津市は民間ノウハウを活用したDBO(公設民営)方式※による建替えを決定し、約6年にわたる事業期間を経て、2022年に施設は無事新築開業にいたりました。
本インタビューでは、津市産業振興担当の脇田参事と運営者であるマザーズの重松総支配人にお話を伺い、プロジェクト全体を振り返っていただきました。
※DBO方式…Design(設計)-Build(建設)-Operate(運営管理)の略で、公共団体が資金調達し、民間事業者に設計・建設・運営管理を一体的に委託して実施する官民連携の方式の一つ。
プロジェクト概要はこちら☞ https://www.hankyu-cm.jp/project/detail/000310.html
CLIENT
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脇田参事様
三重県津市
産業振興担当
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重松総支配人様
株式会社マザーズ
榊原温泉 湯の瀬運営
INTERVIEWER
岡田・杉田
阪急コンストラクション・マネジメント株式会社
岡田(大阪本社)・杉田(名古屋事務所)
■阪急CMの採用のきっかけについて
阪急コンストラクション・マネジメント
計画について市で構想されたのが今から7~8年ぐらい前だったかと思いますが、そこから我々が参画して竣工開業までの間約3年関わらせていただきました。市として、初めてDBO事業を実施することとなった経緯、CM会社を導入するきっかけを教えていただけますでしょうか。
津市(脇田参事)
建物の整備手法を考える中で、官民連携としてPPPでやろうという話がありました。また、以前民間企業から関心表明を得て提案してもらう形で整備を行った前例もあった。ちょうど同時期に阪急CMからもCM業務の案内がありCMを導入してみようという話になりました。
阪急コンストラクション・マネジメント
その時点ではCMについてどのくらいご存知でしたか。
津市(脇田参事)
CM自体、何をするか理解していなかったが、説明いただいた内容や業務の内容を調べ、市としてどのように事業を進めていけばよいか分からなかったこともあり、採用してみようとなった。予算取りの説明には苦労したが、副市長がCM採用に理解を示してくださったこともあり、スムーズに採用に至ることができました。
阪急コンストラクション・マネジメント
CM会社やDBOの採用など、市として初めて行なう事業に対して、市長や副市長の柔軟な対応と理解が大きな事柄だったのですね。実際に事業推進支援として阪急CMを選定いただきどのような印象でしたか。
津市(脇田参事)
一言で言うと助かりました。特に、事業の進め方がわからない状況で、事業者募集をどのように行なうか主導していただき、頼りにすることができました。このような業務は本来、建設関連の部署が対応するため、設計や工事管理を誰が行なうのかが課題でした。今回は民間主導の事業ですが、その内容を市側が管理をしなければならないので、技術的なサポートを阪急CMにしていただき、事業をスムーズに進められました。
■生まれ変わった湯の瀬の運営面について
阪急コンストラクション・マネジメント
運営についてお聞きしたいのですが、湯の瀬のような温浴施設の運営は大変だと思いますが、このプロジェクトに応募しようと思われたきっかけはなんでしょうか。
マザーズ(重松総支配人)
私どもの会社では、2018年から日本初の福祉旅館を愛知県南知多で運営しているのですが、まちづくりにも関与しており、日本中に拡大していきたいという夢があります。今回の事業では地域貢献と福祉が融合されたまちづくりに加えて、バリアフリーツーリズムが展開していけると考え参加しました。
阪急コンストラクション・マネジメント
社長もすごくアクティブな方で、色々なことにチャレンジされているように感じます。温浴施設を運営していくことは大変だと思うのですが、まちづくりと融合しビジネスとして展開していることは面白く感じます。
津市(脇田参事)
関心表明いただいた会社の中で、マザーズさんが一番好印象でした。
阪急コンストラクション・マネジメント
事業者選定後いろいろと提案していただき、新しいことへのチャレンジとして開業を迎えました。開業までも大変だったと思いますが、実際運営を始めてみてどのような印象でしょうか。
マザーズ(重松総支配人)
温浴施設運営が初のチャレンジですが、これまでの知識と経験、マーケティングや勉強を通して、地域について知っているつもりでした。しかし実際始まってみると、本当の意味で地域のことを理解できていないことがわかりました。近隣の他の旅館の状況や、榊原温泉が苦戦している現状も自分たちが中に入ってみて、なるほどと思うことが多くありました。
津市(脇田参事)
地元との信頼関係を早い時期から築きたかったが、実際に地元と密接に連携できたのは開業3ヶ月前くらいからだったため、準備不足であったと思っています。この1年間の運営で地域との連携も良くなってきたと思っています。開業当時は打合せはしていたものの市の関わり方も浅く、地元、事業者、市の三者が一体になっていなかったのではないかと反省しています。
マザーズ(重松総支配人)
当初はいい意味で三者とも遠慮がありました。実際運営を始めて地域との衝突もありました。ただ、この衝突は良い影響もあり、結果的に現状の地域との良い関係が始まったきっかけとなりました。地元の方々のとにかく榊原温泉を復活させたいという思いを強く感じるからこそ、その思いに応えていきたいです。
阪急コンストラクション・マネジメント
湯の瀬のリニューアルによって、当初は観光振興や福祉の面の充実が目的だったとは思いますが、結果としてもう一度地元との関係性を考えることができて、地域との連携が深まる良いきっかけとなったのですね。
■地域との関わりについて
阪急コンストラクション・マネジメント
現在は様々なイベントを地元と連携して行われているのですか。
マザーズ(重松総支配人)
まだ動き始めですが、今年、榊原温泉地域内にウォーキングコースができます。出発地、到着地ともに湯の瀬で、観光協会と一緒にさせていただく予定です。その他にも野菜などの直売所の設置や、ファミリーのお客様に農地を回って収穫を体験していただき、その野菜を湯の瀬でバーベキューするといったプランも考えています。
津市(脇田参事)
今年はホタルのイベントにも観光客が多く来てくれました。夜は協力してもらい様々なお店を出していました。
マザーズ(重松総支配人)
私達もお店を出させていただき、観光客の若い方がインスタグラムなどで紹介してくれたこともありすごい人でした。
津市(脇田参事)
今後はイベントに観光客が多く来てくれるようになるかと期待しています。今秋の収穫祭にどれくらい来てくれるか楽しみにしています。
マザーズ(重松総支配人)
1周年のイベントでは自治会長が榊原地区に回覧板で周知してくださり、今まで湯の瀬に来館したことがない方にも来ていただけ、とても嬉しかったです。地元の方だけでも80名以上来ていただけ、本当に地元の団結力を感じました。今では地元の方から毎日何かしらの農産物が届くようになりました。毎週土曜日には市場を開催しており、これを目当てに土曜日に来ていただく方もたくさんいらっしゃって、本当にありがたいです。
阪急コンストラクション・マネジメント
それが湯の瀬のルーティンとして徐々に馴染み、様々な方々に届いてくれるともっと人が集まるってくるかと思います。
津市(脇田参事)
今後は榊原エリア内に他にも滞在できる場所をつくることが大切だと思います。旅館には来客者が少しずつ戻ってはいますが、宿泊した人が次にいく場所として一日を過ごせる場所を増やさないといけないと思います。
マザーズ(重松総支配人)
2024年1月に体験型アウトドアサウナがオープンしました。周囲に観光するコンテンツがないこともあり、地元の目標としてもコンテンツを増やしていき、榊原を観光地として認知していただけるようにしていきたいです。
■湯の瀬建替事業を振り返って
阪急コンストラクション・マネジメント
事業がスタートしたのが約8年前、そして今開業して1年が経ちましたが、今後の展望についてお聞かせいただけますか?
津市(脇田参事)
市としては、全体の経費削減を達成しつつ行政サービスを維持できていることから、本事業は大成功、と考えています。今後は、公共施設としていかに継続、発展させていくか、ということが課題と考えています。そのため、地域医療と連携した医療ツーリズムや公共交通の充実等にも積極的に取り組んでいく予定です。榊原エリアには、観光・福祉・温泉・医療が揃っており、それぞれが連携することで相乗効果が期待できる地域だと思っています。(24年3月時点:医療ツーリズム実施済)
マザーズ(重松総支配人)
会社としても個人としても新たなチャレンジであり、市や地元と一緒に事業運営を進めていく難しさはありますが、だからこそ「地域活性化のストーリーが生まれるんだ」ということを体感しています。今後、本当の意味での地域貢献をどう発展していけるか、が課題と捉えています。「榊原を盛り上げたい」という地元の思いを一緒に叶えていきたいと思っています。
阪急コンストラクション・マネジメント
振り返ると様々な縁やタイミングに恵まれたことと、福祉施設と地域の親和性があったことで湯の瀬がうまく機能できているのかと感じています。本日は貴重なお時間ありがとうございました。
津市(脇田参事)
ありがとうございました。
マザーズ(重松総支配人)
ありがとうございました。
MANAGER’S VOICE
本事業はコロナ禍での設計・工事・開業となりました。開業当時、大変な困難に立ち向かうお二人の姿を目にしましたが、今では良きパートナーとして、地元密着の観光振興、地域振興を楽しんでおられる姿が印象的でした。実際、リニューアルを機に、魅力的なコンテンツがたくさん生まれています。阪急CMとしても、今後の榊原地域の発展に微力ながらご協力していきたいと思います。