建築基準法改正について (平成30年法律第67号) 2019年6月25日施行
今回の法改正で、これまでの建築基準法の考え方から大きく変更となる内容は、「性能規定化」が行われることにあります。従来は、仕様規定により建築物の材料や工法、寸法などが具体的に規定されており、この基準を満たす必要がありました。しかし性能規定化により、達成すべき目標に対して建築物に要求される性能が満たされていれば、従来の材料・工法・寸法などの仕様にとらわれない設計とすることが可能になりました。結果として、これまでは耐火建築物とする必要があったために実現が難しかった「木造建築物の構造現し※1」が、耐火建築物と同等以上の性能を持つ延焼防止建築物等による設計により実現可能となりました。
法改正の背景 3つの観点
建築物・市街地の安全性の確保
防火地域・準防火地域などの市街地では、火災が発生した際に建築物による延焼を防止し、火災の危険性を抑制する性能が建築物に求められています。しかし、2016年12月に発生した新潟県糸魚川市の大規模火災や、2017年2月の埼玉県三芳町の倉庫火災など、近年大規模な火災が発生していることから、改めて建築物の適正な維持管理や、老朽化した木造建築物の建替え促進を図ることが課題となっています。
既存ストックの活用
2018年の住宅・土地統計調査結果から、直近の空家数は全国で846万戸と、20年で約1.5倍に増加しており、このうち4割に至っては活用方法が未定の「その他住宅※2」となっています。一方で総住宅数は毎年増加傾向にあり今後も既存ストックとしての空家は増加するものと考えられています。このような実情を受け、今回の法改正では、増加していく既存ストックを資源として有効活用する際にネックとなっていた部分の見直しが図られています。
木造建築の推進
国土の約67%を豊かな森林資源が占める日本では、「日本再興 戦略2016」でも挙げられている通り、国を挙げて建築物の木造及び木質化を推進しています。しかし建築物の規模や用途により建築基準法の制限がかかるため、中規模以上の建築物では木造化が進んでいない状況でした。これを受け、木造に対するニーズへの対応と共に地場産木材を利用した地域振興を図るため、法改正により積極的な木材利用推進が図られています。
6月改正の内容
2019年6月25日施行の法改正では、防火規制の緩和をはじめ各種改正が行われています。
密集市街地等の整備改善に向けた規制の合理化 (建蔽率緩和の対象拡大)
防火地域・準防火地域において、延焼防止性能の高い建築物への建替えを促進するため、これまでは防火地域かつ耐火建築物の場合に建蔽率が10%緩和されていましたが、法改正により、準防火地域内の耐火建築物・準耐火建築物に対しても建蔽率の10%緩和が適用されることになりました(表1参照)。
既存建築物の維持保全による安全性確保に係る見直し
埼玉県三芳町の大規模倉庫火災を受け、建築物の維持保全計画の作成対象が見直され、倉庫・車庫用途で床面積3,000m2を超える建築物が新たに作成対象となりました。また、安全性に問題のある既存不適格建築物に対しては、これまで行政からの命令や勧告といった比較的厳しい措置のみであったため、制度としての利用が進んでいませんでした。そのため、指導や助言といった項目を追加することで、建物所有者が行政へ相談しやすい法令へと改正されています。
戸建住宅等を他用途に転用する場合の規制の合理化
確認申請(法第6条第1項)の対象となる建築物の規模が見直されたことで、用途変更を行う場合の対象面積も変更となりました。従来は法第6条第1項1号に該当する建物(特殊建築物で床面積100m2を超える建築物)は用途変更申請が必要でしたが、改正後は床面積200m2を超える建築物が対象となったことから、既存3階建て150m2の住宅などをグループホームに用途変更する場合に確認申請が不要となりました(表2参照)。
従来は3階以上を特殊用途(法別表い欄1~4)とした場合[法第27条]により、主要構造部を耐火構造とする必要があり、木造住宅等から他の用途への用途変更が難しい状況でしたが、法改正により、小規模建築物(階数3、延べ面積200m2以下)は規制の対象外となりました(表3参照)。
建築物の用途転用の円滑化に資する制度の創設
既存不適格建築物を用途変更する際に、既存遡及される項目については現行基準への適合が必要であることから、大規模な建物では特にコストや工期の負担が大きく、用途変更を行う事例が少ない状況であったため、用途変更の際にも全体計画認定制度※3を導入し、段階的に改修工事を行えるよう法改正が行われています。また、既存建築物を一時的に用途変更する場合、新設の仮設建築物と同様に適用除外となります。
木材利用の推進に向けた規制の合理化
法改正による性能規定化に伴い、建築物に要求される耐火性能の基準に新たな枠組みが追加され、従来は耐火建築物とする必要があった建築物も同等以上の性能を有した建築物とすることが可能となり、設計の幅が広がっています。
改正前の建築基準法では、[法第21条]により高さ13mまたは軒の高さが9mを超える建築物、延べ面積が3,000m2を超える建築物の主要構造部(柱や梁など)を耐火構造とする必要がありましたが、改正により、高さ16mまたは地階を除く階数が4以上の建築物(倉庫・車庫は除く)が対象となり、規制が緩和されました(表4参照)。
防火地域・準防火地域内の建築物は、[法第61条]により規模に応じて耐火建築物または準耐火建築物とする必要があり、特に防火地域では小規模な建築物でも耐火建築物とする必要がありました。しかし、法改正により、耐火建築物と同等以上の性能を持つ「延焼防止建築物※4」や、準耐火建築物と同等以上の性能を持つ「準延焼防止建築物※5」が新設され、各性能を満たす建築物でも設計可能となりました(表5・6参照)。
用途制限に係る特例許可手続の簡素化
都市計画で決められている用途地域では建築可能な用途が定められていますが、建築審査会の同意を得た上で特定行政庁の許可がある場合は、特定の用途以外でも建築可能となります。第一種低層住居専用地域へのコンビニ建築など、これまでに許可の実績が多いものについては一定の基準を満たした場合、手続きの合理化として建築審査会の同意が不要となります。
その他
防火床による区画 / 共同住宅等の界壁の代替措置 / 階段構造の緩和 / 手続きに関して
<現時点で改正が未定の政令>
延焼のおそれのある部分 / 無窓居室の主要構造部 / 小規模建築物の直通階段 / 敷地内通路の幅員 / 内装制限の代替措置 / 避難安全検証の見直し / アトリウム等における面積区画の適用 / 排煙上の別棟とみなすアトリウム等の基準 / 異種用途区画の代替措置
おわりに
建築基準法は大災害の発生や建築技術の進歩により、適宜改正されており、今回の法改正の内容が更に緩和されたり、場合によっては規制強化となる可能性があります。建設プロジェクトにおいて全体のコストに直結する法改正もあることから、プロジェクト全体の品質向上のためにも、改正内容は設計者・施工者だけではなく、発注者側(CMr含む)も理解を深めていくことが重要です。
2019.12.25